夜の電車
たまたま電車に乗っていて、思い出したことがある。
高校生時代は、電車通学していた。
かなり練習量の多い部活に所属していたので、帰りはいつも8時過ぎだった。
私が降りる駅に近くなると、だんだん乗客も減り始め、前後周囲の椅子も空いてくる。
空いた椅子の向こう、窓の外はすでに闇となっており、その窓ガラスには車内の明るい情景が映っていた。
そして私の真向かいには、かしこまって座っている私自身が映っていたのだ。
電車のガタゴトいう音に合わせて揺れながら、窓に映った私はとても真面目そうな顔でこちらを見ていた。
時々、こちらの自分と目を合わせて、何か考えてるように、何か言いたげにじっと見ていた。
そして、電車が走り続けるのと一緒に、窓に映った私はどこまでも付いてきたのだ。
私はちらりちらりと見続けた。そしてふと気が付いた。「ああ、"私"が一緒にいるんだ」と…。
あの心配そうで、ちょっと困ったようで、少し励ましているような眼差しは、私を応援している私なんだ、と…。
電車が走り続けるのと並行して、その私はずっと同じスピードで付いてきた。
たとえ車内の電気が消えたとしても、闇にまぎれた影のように、そっとそこにい続けるだろう。
電車から降りたとしても、映るものがあれば、そこにいるのが確かめられるはずだ。
…そう思ったら、あの高校生時代の、何かそぐわない気持ちが少し楽になった。
「もう、独りじゃない。孤独と二人だから…」
そう歌った、ジョルジュ・ムスタキの歌に共鳴したのは、そのときのことが、頭にひらめいたからなんだろうな…